Tactics/Key諸作品におけるファンタジー世界観〜時系列の共鳴・共振ないし円環構造,もしくは共時性〜(9)

第2章 Tactics/Key諸作品のファンタジー世界観Ⅰ―『ONE〜輝く季節へ〜』の場合―

5.「永遠の世界」と生活世界の例外的な時制〜時系列の共鳴・共振〜

 

(4) 長森瑞佳シナリオ〜擬似的兄妹関係の終焉と反動〜(シナリオ担当:麻枝准)


浩平「もっと違う起こし方してくれたら,すぱっと起きられるかもな」
長森「どんなだよ」
<選択肢:目覚めのキスだとか…>
浩平「目覚めのキスで起こすとかだな…」
長森「もーっ,またなに言ってんだかっ…。どうせそんなことしたって,ぐーぐー寝てるくせに」
<選択肢:いや,さすがに起きるだろう>
浩平「いや,さすがに起きるだろう」
長森「どうして?」
浩平「ドキドキするからだ」▽
オレは言ってから,何をバカなことを言ってるんだろう,と思う。
長森「えーっ,どうしてドキドキするのっ? わたしだよ,わたしっ! 浩平,わたしなんかにキスされて嬉しいのっ!?」
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月10日起床後)

 
そして,そんななにもない,どこにも繋がらない場所で,ぼくはぼくを好きでいてくれるひとだけの存在を,もっと切実に大切に思うのだ。△
きみと一緒にいられること。
それはこの世界との引き替えの試練のようであり,また,それこそがこの世界が存在する理由なのだと思う。
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月10日就寝後/永遠の世界Ⅲ)

  ところが,個別シナリオに分岐すると,生活世界の出来事に呼応するかのように,「永遠の世界」の固定性が揺らぎ始める。

(ねぇ,たとえば草むらの上に転がって,風を感じるなんてことは,もうできないのかな)▽
(『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ・12月15日起床前/永遠の世界Ⅳ)

 
長森「ね,どこいく?」
浩平「そうだなー……ゲーセン」
長森「えー,ゲームしにいくの?」
あからさまに難色を示す長森。こいつはゲームというものにまったく興味を示さないタイプの人間だからな…。
まあ,オレもダメもとで聞いてみた感じだ。
浩平「いやか?」
長森「うーん……」
浩平「仕方ないな。じゃ,まっすぐ帰るか」
長森「え,でも,いいよ……いこうよ,ゲーセン」△
浩平「おまえ,嫌なんだろ?」
長森「我慢するよ」
浩平「そんな,テスト期間中だからリラックスするためにいくってのに,我慢するぐらいなら,いく必要なんてないの」
長森「ううん,いきたいよ,ゲーセン」
浩平「嘘つくな」
長森「ううん,浩平とだったら,いきたいよ,ゲーセン」
浩平「ほんとか?」
長森「うんっ。浩平とだったら,一緒に居るだけで面白いと思うよ」
(『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ・12月15日放課後)

 
長森「はぁ……大丈夫かな,浩平は」
浩平「なにが」
長森「わたしがずっとそばに居てあげなくちゃいけないのかな,なんて思うよ」△
(『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ・12月16日放課後)

 
<選択肢:じゃあ,なおさら遊んで帰るか>
浩平「じゃあ,なおさら忘れるために,遊んで帰るか」
長森「うん,そうしよっ。あんまりハメははずせないけどね」
浩平「でももう,どこも行き飽きたって感じだけどな」
長森「そんなことないよ。浩平とだったら,どこだって楽しいよ?」
浩平「そうか? じゃあ,どっかで食いながら,話しでもするか」△
長森「うん,それで十分楽しいよ」
 
<選択肢:学生の定番,恋の話をする>
恋の話…?
確かに定番だろうけど,このオレたちにそれほど縁遠い話題もないぞ…。
まあ,いい。振ってみるか。
浩平「長森,恋はしてるか」
ぶっ!
長森がミルクティーを逆流させてしまう。
浩平「うわ,おまえ汚いなぁ…」
長森「そ,そんな,浩平がおかしなこと言うからだよっ」
浩平「どうして。オレたちだって,いい年頃の学生なんだから,そんな話したって普通だろ?」△
長森「でも,唐突すぎるよっ」
浩平「まあ,唐突だったのは認めるけど…」
浩平「で,どうなんだ。恋はしてるのか」
長森「してないよ」
浩平「はぁっ……やっぱ,おまえ,オレのことなんか心配してるよりも自分のこと心配したほうがいいと思うぞ」
長森「だって,誰かさんが,させてくれないんだもん」
(『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ・12月17日放課後)

 
オレは目を覚ますと,そのまま上体を起こす。
浩平「グモニー」
浩平「おっと,英語の勉強しすぎかな」
長森「そんな簡単な問題なんてでない」
浩平「なら,ジュテーム」△
長森「だ,誰に言ってるんだよっ」
浩平「おまえに決まってんだろ」
長森「えっ…?」△
(『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ・12月18日起床後)


*長森瑞佳がゲーセンへ足を運び,折原浩平のそばに居たいと口にし,一緒に話すだけでも楽しい,そして恋の話をしよう,と到る一連の出来事がいかに劇的であり,それぞれどのようなモチーフを読み取ることができるかについては,then-d「Sweetheart,Sweetsland〜長森瑞佳論〜」(2006年8月初出,同人誌『永遠の現在』40頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収)による詳細な検討を参照されたい。
  長森瑞佳シナリオは,この交互影響関係,あるいは時系列の共鳴・共振が特にはっきりしている。生活世界で当初,あれほど幼なじみ同士の際限ない延長関係に拘泥し,互いに異性を意識することに過剰なまでの拒絶反応を示していた長森瑞佳と折原浩平との関係性(擬似的兄妹関係)は,「永遠の世界」で風が吹き,雲が動き,草の匂いを感じるという律動に転じた決定的な描写―それを望んだのは「永遠の世界」に在る「ぼく」なのだ―が現れた直後から,それに呼応するかのように,劇的に恋愛関係へと転換していく。
  ところが,生活世界で長森瑞佳と恋仲になった後,折原浩平の抱く不安に応じるかのように,二つの世界の間での交互影響関係,あるいは時系列の共鳴・共振は,再び「永遠の世界」の固着化へと向けられていく。

手が何かに触れた。
それは長森の手だった。
長森が,オレの手を握っていた。
長森「あはっ…」
照れて,小さく笑う長森。
オレの冷たい手を,長森の温かい手が握っている。
浩平「………」
<選択肢:振りほどいてやる>
長森「………」
ただ黙って手を握って歩く長森。オレも何も言わず歩いた。
長森「クリスマス…だね」
そんな言葉を繰り返していた。
なんなんだろう,この感情は…。▼
(『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ・12月21日放課後)

 
なにも失わない世界にいるぼくは
なにをこんなにも恐れているのだろう。▲
(『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ・12月21日就寝後/永遠の世界Ⅳ)

  そして,シナリオ終盤,生活世界と「永遠の世界」は,その能動性と固定性とが,まるで振り子運動のように激しく交差するようになり,

放課後になり,帰り支度を終えて教室を見回すと,長森の姿はない。
部活にでもいったのかと思って,教室を出ると廊下に長森が待っていた。▽
(『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ・1月8日放課後)

*この直後,生活世界から永遠の世界Ⅶへ切り替わる*
帰り道…
(ん…?)
帰り道を見ている気がするよ。△
(そう…?)
うん。遠く出かけたんだ,その日は。
(うん)
日も暮れて,空を見上げると,それは違う空なんだ。いつもとは。
違う方向に進む人生に続いてるんだ,その空は。
その日,遠出してしまったために,帰りたい場所には帰れなくなってしまう。▲
ぼくは海を越えて,知らない街で暮らすことになるんだ。
そしていつしか大きくなって,思う。
幼い日々を送った,自分の生まれた街があったことを。
それはとても悲しいことなんだ。
ほんとうの温もりはそこにあるはずだったんだからね。△
(………)
(…それは,今のあなたのことなのかな)
そんなふうに聞こえた…?
(うん…)
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅶ)


オレは生涯でこれほどに楽しくて幸せな時など二度と巡ってくることなどないのではないか,と思うほどの日々を送っていた。▽
でもそれは,長森が居てくれるなら続くと思う。
 
夕焼けの帰り道。
オレは斜めから差す陽に向かって,空を見上げた。▼
……
真っ赤な世界。
…どこまでも続く世界だ。
(『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ・1月14日放課後)

*この直後,生活世界から永遠の世界Ⅷへ切り替わる*
また,ぼくはこんな場所にいる…。▲
悲しい場所だ…。
ちがう
もうぼくは知ってるんだ。△
だから悲しいんだ。
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅷ)


だってずっと子供のままだったんだから…
みずかは。▽
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅸ)

*この直後,永遠の世界Ⅸから生活世界へ切り替わる*
浩平「瑞佳っ!」△
オレは思わず,長森の名を叫んでいた。
(『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ・1月14日放課後)


*折原浩平にとって,「長森」と「瑞佳/みずか」が交差し,「長森瑞佳」が認識された決定的瞬間。その意味するところについては,then-d「Sweetheart,Sweetsland〜長森瑞佳論〜」(2006年8月初出,同人誌『永遠の現在』40頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収)による詳細な検討を参照されたい。
それまでずっと苗字の「長森」で長森瑞佳のことを呼んでいた生活世界の折原浩平が,直前に挿入された「永遠の世界」の「ぼく」が呼んだ「みずか」という声に喚起されるかのように,初めて彼女のことを「瑞佳」と名前で呼んだ瞬間,生活世界と「永遠の世界」は,決定的な交互影響を及ぼし合い,その時系列の共鳴・共振が最大に達する*1。その帰結として,「永遠の世界」の「ぼく」はその世界での意識を閉じ,かつて生活世界に在ったときと同じ「オレ」という一人称再起動する―と二つの世界の間に働いた力学を把握できる余地が生じることになる。

こんな永遠なんて,もういらなかった。
だからこそ,あのときぼくは絆を求めたはずだったんだ。▽
…オレは。△
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅸ)

*1:ちなみに,七瀬留美シナリオと椎名繭シナリオでも,この場面で生活世界の折原浩平は「瑞佳」と名を呼ぶ。したがって,「瑞佳」と呼ぶ折原浩平を根拠にして,この瞬間に生活世界と「永遠の世界」との決定的な交互影響を見出すのは,長森瑞佳シナリオに限って有効な解釈であることに注意しなければならない。

Tactics/Key諸作品におけるファンタジー世界観〜時系列の共鳴・共振ないし円環構造,もしくは共時性〜(8)

第2章 Tactics/Key諸作品のファンタジー世界観Ⅰ―『ONE〜輝く季節へ〜』の場合―

5.「永遠の世界」と生活世界の例外的な時制〜時系列の共鳴・共振〜

 

(3) 共通シナリオ〜惹かれ合う生活世界と「永遠の世界」〜


虚無…。
意志を閉ざして,永遠に大海原に浮かぶぼくは,虚無のそんざいだった。
あって,ない。
でもそこへ,いつしかぼくは旅だっていたのだ。▼
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月1日就寝後/永遠の世界Ⅰ)

 
朝。
何かの喧噪で目が覚めたオレは,薄目を開けて枕元の時計に目を遣る。
蛍光色で加工された時計の針と文字盤が,薄闇の中で青白く浮かんでいた。
半分閉じかけた瞳を懸命にこらし,ぼやける視界の焦点を合わせる。
<選択肢:起きる>
静かだ。
そして,心地いい。
まるでこの世界で目覚めているのはオレ一人しかいないような錯覚さえ覚える。▲
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月2日起床時)


信号待ちをする最中,ふと空を見上げる。
そして,オレは不思議な概視感にとらわれた。
それは,涙が出てしまうような琴線に触れるものだった。
どこまでも続くようなこの空の果てに,もうひとつの自分の居場所を感じる。
そこで自分は,二度と帰ってはこれない,この場所を思うのだ。▼
浩平「………」
信号が青になったことも気づかず,オレはその空を眺めていた。
………。
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月4日放課後)

 
静止した世界。
べつに光景が止まっているわけじゃない。
光は動いているし,バイクの加速してゆくエンジン音だって聞こえる。
静止していたのは,それを見ている自分の世界だった。▲
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月4日就寝後/永遠の世界Ⅱ)


ずっと,動いている世界を止まっている世界から見ていた。▼
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月4日就寝後/永遠の世界Ⅱ)

 
横断歩道の前に立つと,何気なく空を見上げていた。
………。
どうしてだろう…よくわからない。
ずっと続いている違和感。
ふと感じるのは,客観的なイメージとして,今の自分がここに存在しているということだ。
どこか…つまり,あの空の向こうとも比喩すべき場所にいる自分が,オレの存在をずっと見守っているような気がする。▲
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月9日放課後)

  こうしてみると,共通シナリオのうちは,二つの世界の間での交互影響関係,あるいは時系列の共鳴・共振は,一貫して「永遠の世界」の固着化を志向していることが明らかになってくる。

Tactics/Key諸作品におけるファンタジー世界観〜時系列の共鳴・共振ないし円環構造,もしくは共時性〜(7)

第2章 Tactics/Key諸作品のファンタジー世界観Ⅰ―『ONE〜輝く季節へ〜』の場合―

5.「永遠の世界」と生活世界の例外的な時制〜時系列の共鳴・共振〜

 

(2) オレは生活世界から,「永遠の世界」のぼくを既視する

  ところが,他方で,生活世界に在ったときの折原浩平に着目すると,彼は予感すべき「永遠の世界」を既に視ていると感じ,また,未到のはずの「永遠の世界」に自分が既に在って,逆にそこから見守られているような気がしていたという描写を見付けることができる。このような,未来の出来事を過去と把握し,確定的な未来現在に遡及すると解するような乖離的イメージの顕現は,彼の通時的感覚に揺らぎが生じていることを意味する。


こんがらがってきたな…。
何よりもそれらはイメージだ。
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月9日)

  そこで,ここでは,上述のような通時的感覚の揺らぎが,折原浩平の内面だけに留まらず,『ONE〜輝く季節へ〜」作品全体に通底するファンタジー世界観を成り立たせているということを検証しておきたい。というのも,実在する内面世界としての「永遠の世界」と生活世界との関連性については,両世界の物理的・地理的な位置付け―遊離した地続き性―だけでなく,両世界の時間的な相互関係にも,特徴を見出すことができるからである。
  どういうことかというと,生活世界と「永遠の世界」相互間の時系列については,前項で概観した通り,過去(生活世界)から現在(永遠の世界)に到る因果関係があるだけでなく,未来(永遠の世界)から現在(生活世界)に到る因果関係を見出すこともできるのである。すなわち,二つの世界の間では,時系列共鳴ないし共振している。確かに,生活世界と「永遠の世界」相互間の原則的な時系列は,プレイヤーキャラクターの「オレ」(折原浩平)が,生活世界でヒロインたちとの学園生活を過ごし,「永遠の世界」へと消え去った後,元の世界に残してきたヒロインとの絆の深さ次第で生活世界への帰還を果たす順である。しかし,ここでそのシナリオ構成が,生活世界から「永遠の世界」へと順序立てて叙述するのではなく,生活世界の描写の中途に「永遠の世界」の描写が挿入され,交互に叙述するものになっていることを踏まえると,二つの世界が力学的に相互に影響を及ぼし合っている可能性が想起されることになる(ただし,あくまでも抽象的な仄めかしである) *1
  以下は,上述の見解に基づき,シナリオごとに,生活世界と「永遠の世界」との間で時制に揺らぎが生じている場面を箇条書きしたものである。{▼▲}{▽△}は拙稿執筆者が付記した記号であり,その三角印の向きの照合関係は,そのまま生活世界と「永遠の世界」との間で交互影響関係が発生し,あるいは時系列が共鳴・共振していることを指摘するものである。{▼▲}は「永遠の世界」の固着を促し,他方で,{▽△}は「永遠の世界」の律動を志向する。

*1:then-d「『ONE』〜視点の問題を中心に〜」(2001年2月初出,同人誌『永遠の現在』19頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収)による検討。

Tactics/Key諸作品におけるファンタジー世界観〜時系列の共鳴・共振ないし円環構造,もしくは共時性〜(6)

第2章 Tactics/Key諸作品のファンタジー世界観Ⅰ―『ONE〜輝く季節へ〜』の場合―

5.「永遠の世界」と生活世界の例外的な時制〜時系列の共鳴・共振〜

 

(1) ぼくは「永遠の世界」から,生活世界のきみを追想する


そして,そんななにもない,どこにも繋がらない場所で,ぼくはぼくを好きでいてくれるひとだけの存在を,もっと切実に大切に思うのだ。
きみと一緒にいられること。
それはこの世界との引き替えの試練のようであり,また,それこそがこの世界が存在する理由なのだと思う。
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅲ)

  ここまでの検討では,「永遠の世界」については,ひどく内閉的で「静止した世界」*1という印象が伴ってきたように思われる。ところが,実際には,「永遠の世界」に在る「ぼく」が,かつて過ごした生活世界―ヒロインとの間に絆を獲得していった日々―を追想していくと,それに呼応するかのように「永遠の世界」の固定性も揺らぎ始めて,徐々にその律動感を増していく。「あんなにも心に触れてくる」からと「思いを馳せ」*2,自ら望んだはずの「永遠の世界」に対して,「ぼく」は疑念を抱き始めるのである。

(どうしてぼくは,こんなにも,もの悲しい風景を旅してゆくのだろう)
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅲ)

それはこの世界を蔑んでいることになる。
彼女を含むこの世界を。
…気づいているだろうか?
この僕の猜疑心に。
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅴ)

なにも失わない世界にいるぼくは
なにをこんなにも恐れているのだろう。
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅵ)

  「永遠の世界」が,上述の通り,物理的・地理的に実在する内面世界なのだとすれば,自意識が揺らぐと物理的な安定も失われてしまうということは,大いにあり得る。そして,疑念を抱くだけに留まらず,

(ねぇ,たとえば草むらの上に転がって,風を感じるなんてことは,もうできないのかな)
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅳ)

望むというのであれば,「永遠の世界」で一緒に在る少女の手助けを得て,「いつも見える世界の外側」に在ったはずの「ぼく」は,

彼女が僕の背中に回って,そして両腕で僕の体を抱く。
(いい?)
(あ,うん…)
(雲が見えるよね…)
すぐ耳の後ろで声。
(見えるよ)
(ゆっくりと動いてるよね)
(そうだね。動いている)
(あれは,何に押されて動いてるのかな)
(風)
(そう,風だね…)
(風は,雲を運んで…ずっと遠くまで運んでゆくんだよ…)
(…世界の果てまでね)
(………)
草の匂いが,鼻の奥を刺した。
それは風に運ばれてきた匂いだ。
(きたよ…風…)
(そう,よかった)
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅳ)

風が運ぶ雲の動きを知り,風が運ぶ草の匂いを感じることができるようになるというのであり,いよいよもって世界は動的なものへと転じていく*3
  こうした「永遠の世界」における静から動への変化,その後「ぼく」が「永遠の世界」から離脱するに到るまでの一連の現象は,結局のところ,過去の生活世界における出来事について,「永遠の世界」に在る現在の「ぼく」が追想し,ヒロイン=「きみ」とのかけがえない絆という物語化*4に成功したことによる所産に過ぎないということになる。
  とするならば,これまでの検討の限りでは,過去(生活世界)から現在(永遠の世界)に到る因果関係があるだけのことであり,時系列に関する現象はそれ以上でもなければそれ以下でもない。

*1:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅱより。

*2:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅰより。

*3:佐分利奇士乃「『ONE』雑論:自分を現実からデリートしないために」(1999年初出,同人誌『永遠の現在』306頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収),then-d「『ONE』〜視点の問題を中心に〜」(2001年2月初出,同人誌『永遠の現在』16頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収)による検討。

*4:出来事の意味を後付けすること。出来事が遡及的に発生するわけではない。

Tactics/Key諸作品におけるファンタジー世界観〜時系列の共鳴・共振ないし円環構造,もしくは共時性〜(5)

第2章 Tactics/Key諸作品のファンタジー世界観Ⅰ―『ONE〜輝く季節へ〜』の場合―

4.「永遠の世界」と生活世界の原則的な時制〜追想の物語〜

  次に,「永遠」という用例の特殊性*1を念頭に置きつつ,現象としての「永遠の世界」の時制について,以下の通り概観しておこう。
  『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオの冒頭については,


「えいえんはあるよ」
彼女は言った。
「ここにあるよ」
確かに,彼女はそう言った。
永遠のある場所。
…そこにいま,ぼくは立っていた。
(『ONE〜輝く季節へ〜』プロローグ)

という言い回しから,既に発生している「永遠の世界」へ「ぼく」が初めて到来した瞬間を,現在完了形で描写しているという推測が働く。この場面でかかるBGMのタイトルが「追想」であることも,この推測を後押しすることだろう。時系列の順番を追いかけると,プレイヤーキャラクターの「オレ」(折原浩平)が,日常的な生活世界でヒロインたちとの学園生活を過ごし,非日常的な「永遠の世界」へと消え去り*2,元の世界に残してきたヒロインとの絆の深さによって生活世界への帰還を果たす*3物語として把握される。
  他方で,シナリオ構成順に着目すると,「ぼく」が「永遠の世界」を旅しながら,かつて「オレ」が過ごした生活世界での日常を追想し続け,エピローグに到って,ようやく「永遠の世界」から生活世界への帰還が現在進行形で物語られる。したがって,生活世界,殊に折原浩平が消失する前の出来事は,その叙述が実況調一人称*4であるにもかかわらず,実際には全て過去のものである(あるいは,端的に「現在形で語られる過去*5と捉えるべきか)。
  この点については,「永遠の世界」に関する下記の言及を根拠にして,

そしてその世界には,向かえる場所もなく,訪れる時間もない。
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅰ)

静止していたのは,それを見ている自分の世界だった。
 
進んでいるようで,進んでいない。メビウスの輪だ。
あるいは回転木馬。リフレインを続ける世界。
 
(世界はここまでなんだね…)
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅱ)

(この世界は終わらないよ)
(だって,すでに終わっているんだから)
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅶ)

「永遠の世界」に関する現象では時間の概念が存在しない,あるいは,時系列の円環状態(ループ)が発生していると把握する余地もある*6。もっとも,生活世界を基準とする限り,「永遠の世界」は「確かにもうひとつの世界」*7なのであり,「オレ」(折原浩平)が生活世界において約1年間,記憶の彼方へと忘却され,その存在が消失し,ようやく帰還する(あるいはそのまま帰還しない)という出来事は揺るがない*8。したがって,「永遠の世界」における時間の概念にかかわりなく,少なくとも「ぼく」が「永遠の世界」に在る間,生活世界では「オレ」(折原浩平)が不在のまま時間が経過していくことに変わりはない。

*1:ONE〜輝く季節へ〜』において,「永遠」の意味内容が直接定義されることはなく,迂遠かつ逆説的に,しかも事後的に発見されるに過ぎないという特徴。影王「Last examinations」前提考察『ONE〜輝く季節へ〜』(2000年3月,http://www22.ocn.ne.jp/~pandemon/text/L.e_pre_e.html),then-d「智代アフター試論―Life is like a "Pendulum"―」3.ふたつの「永遠の現在」性(2006年12月初出,同人誌『永遠の現在』205頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収)による指摘。

*2:生活世界の住人から徐々に彼は認識されなくなっていき,彼に関する記憶が生活世界の住人から忘却され切ると,彼の存在自体が生活世界から消失する。後述の通り,絆を結んだヒロインを唯一の例外として。

*3:その途端,あるいはその直前,唐突に生活世界の住人は彼に関する記憶を取り戻し,彼の存在を認識できるようになる。

*4:実況調一人称については,涼元悠一「ノベルゲームのシナリオ作成技法」(秀和システム,2006年,ISBN:4798013994)127頁以下による指摘。

*5:cogni「麻枝准の文体/序論」(同人誌『永遠の現在』329頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収),今木「CLOSED LOOP」2004年8月17日の項(http://imaki.hp.infoseek.co.jp/200408.html#17)/2002年8月10日の項(http://imaki.hp.infoseek.co.jp/p0208.shtml#10)より。

*6:風塵録「『ONE』をプレイして考えたこと(「永遠の世界」について)」(http://www10.plala.or.jp/fujin/tactics.html)より。

*7:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅰより。

*8:生活世界における折原浩平の消失を出来事として確定させるため,『ONE〜輝く季節へ〜』各個別シナリオのエピローグは,実況調一人称による叙述の主体を「オレ」(折原浩平)以外の第三者に移し,多層的な説得を図っている。前述。

Tactics/Key諸作品におけるファンタジー世界観〜時系列の共鳴・共振ないし円環構造,もしくは共時性〜(4)

第2章 Tactics/Key諸作品のファンタジー世界観Ⅰ―『ONE〜輝く季節へ〜』の場合―

3.人の想念が生み出す実在世界としての「永遠の世界」

  と同時に,「永遠の世界」が「ぼく」と「永遠の世界」に在る少女との口約束―「永遠の盟約」によって発生したという事実,そして,その背後には一貫して折原浩平の兄としての挫折と罪悪感―諦念が横たわっていることを踏まえると,「永遠の世界」には折原浩平の自意識的な内面世界としての要素があることも否定できない。かといって,「永遠の世界」がもっぱら内面世界に還元され得ないことは,上述の通りである。
  念のため補足すると,仮に,「永遠の世界」がもっぱら内面世界に還元されてしまうと,折原浩平が生活世界の住人から忘れられ,その存在が物理的に消失するという現象を説明することができなくなる。その存在が忘却され,物理的に消失した生活世界の住人は,折原浩平だけではないのだ。里村茜の幼なじみだった「あいつ」の例を想起せよ*1。しかも,「永遠の世界」から生活世界への折原浩平の帰還は,実況調一人称による叙述の主体が「オレ」(折原浩平)以外の第三者へ常に移り,出来事としての確定が図られている*2
  とするならば,「永遠の世界」とは,生活世界と地続きなまま―ただし遊離して―物理的・地理的に実在する内面世界である,と折衷的に把握することが最適ということになる*3


(ひとが存在しない場所にどうしてぼくは存在しようとするのだろう。もっと,ひとの賑わう町中や,暖かい家の中に存在すればいいのに)
(さあ…よくわかんないけど。でも,あなたの中の風景ってことは確かなんだよ)
(つまりそれは…ぼくの心を風景に置きかえてみたときの姿なんだろうか)
(だったら,少し悲しすぎる…?)
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅲ)

  これは,換言すると,「永遠の世界」には,人の想念が呼応―共時(シンクロ)―して生み出すもう一つの実在世界としての側面があるということに他ならない。ちなみに,このようなファンタジー世界観は,Tactics/Key諸作品に特徴的なものであり,後発の『Kanon』における「夢の世界」,『AIR』における"The 1000th summer",『CLANNAD』における「幻想世界」,『リトルバスターズ!』における「虚構世界*4ないし「夢の世界」*5は,いずれもこの観点から読み解くことが有効な端緒となる。

*1:ONE〜輝く季節へ〜』里村茜シナリオ・1月5日より。

*2:ONE〜輝く季節へ〜』各個別シナリオ・エピローグより。

*3:火塚たつや「えいえんの在処―えいえんは届いたか?」(同人誌『永遠の現在』308頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収)による検討。

*4:一応,西園美魚シナリオで,「虚構」という言葉について触れる場面が一つあるのだが,秘密がある「この世界」のことを「虚構世界」と呼ぶ場面は一つもない。

*5:秘密がある「この世界」のことを手探り的に「夢」と言及する場面は極めて多いが,「夢の世界」と明言する場面はやはり一つもない。

Tactics/Key諸作品におけるファンタジー世界観〜時系列の共鳴・共振ないし円環構造,もしくは共時性〜(3)

第2章 Tactics/Key諸作品のファンタジー世界観Ⅰ―『ONE〜輝く季節へ〜』の場合―

2.現象として地続きな,しかし生活世界と遊離する「永遠の世界」

  他方で,現象としての「永遠の世界」についても,第三者的な叙述は一切存在しない。「永遠の世界」を構成する諸現象は,その世界に在る「ぼく」の独白による風景描写*1と,その世界のもう一人の住人である「彼女」*2との会話を通じて,描写されているに過ぎない。つまり,その世界に在る「ぼく」の視点から,彼の体感に基づく言及と,あるいはその世界に共に在る「彼女」との語らいだけが,不確かな「永遠の世界」を知り得る全てなのである。ここではとりあえず,以下の通り「永遠の世界」を視覚的に概観することを試みよう。
 

(1) 空へと向かう「永遠の世界」の視界

  すなわち,辿り着いた瞬間,「永遠の世界」は暗闇,もしくは無の風景である*3。やがて視界が開けると,小さな浜辺から遠く水平線と,水平線から湧き立つ巨大な雲*4が広がっている。雲に覆われているせいか,その情景は薄暗い。「そこへ,いつしかぼくは旅だって[…]永遠に大海原に浮か[んで]いた」のだ*5。次は,「夕日に赤く染まる世界[…]動いている世界を止まっている世界から見てい」る「ぼく」と「彼女」との会話の場面。視点は海岸線から沖合へ,海上へと移動していく*6。そして,日没直後の大海原。闇に包まれた水平線に,夕焼けが一筋,残照を放つ情景がぼんやりと浮かび上がる*7
  やがて,その視点は一転し,鮮やかな青に彩られた空へと向けられる。「たとえば草むらの上に転が[…]る」かのように,「ぼく」は「大きな雲を真下から眺め」る*8。次いで,「ぼく」の視点は「この下には[…]なんにもない[…]空だけの世界」へと移り,今度は上空から雲を見下ろす*9。そして,さらに高度は上昇し,雲は遥か下方に遠ざかる。薄青の大気が広がる中,「ぼく」は「放り出された海に浮か[…]ぶ」自分の姿を想起する*10
  再び,視点は上空に据え置かれたまま,真正面に夕焼けが現れる。さらにその上方には,一筋の雲がゆらゆらと道を作るかのように沸きこもっており,夕陽に照らし返される。「ぼく」はこの情景を目の当たりにしつつ,「日も暮れて,空を見上げると,それは違う空なんだ」と呟き,「帰り道…」を連想する*11。すると,視界は暗転し,暗闇,もしくは無の風景*12に立ち戻る。「ぼく」は「こんな[…]悲しい場所」に居残ったまま,亡き妹(みさお)との生前の思い出と,みさお没後に「ぼく」が「彼女」と「永遠の盟約」を交わした瞬間を追想する。
 

(2) 「永遠の世界」と生活世界との地続き性と遊離性

  こうしてみると,「永遠の世界」では,海面から天空へと,緩やかに,しかし飛躍的に視界が浮遊していくことが分かる。ただし,そこで描写されていく風景は「永遠の世界」固有のものとは限らない。たとえば,「永遠の世界」には,「訪れる時間もな」*13く,「静止した世界」*14であるはずにもかかわらず,海の沖合にある「ぼく」の視点から,「光は動いているし,バイクの加速してゆくエンジン音だって聞こえ」てくる海沿いの*15ビル街を遠望する場面があったりする*16。この「夕日に赤く染まる」街を指して,「ぼく」と「彼女」は


(あそこには帰れないんだろうか,ぼくは)
訊いてみた。
(わかってるんだね,あそこから来たってことが)
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅱ)

と会話しており,「永遠の世界」から眺望する風景が生活世界の側にあることが仄めかされる。また,「ぼく」が「帰り道…」を連想するとき眺める真っ赤な夕焼け雲*17は,かつて生活世界から「オレ」が「どこまでも続く」「赤い世界」を想起して「空を見上げ」たとき仰いだ夕焼けと同じイメージを象る(要するに,同じイベントCGが用いられている)。

横断歩道の前に立つと,何気なく空を見上げていた。
………。
どうしてだろう…よくわからない。
ずっと続いている違和感。
ふと感じるのは,客観的なイメージとして,今の自分がここに存在しているということだ。
どこか…つまり,あの空の向こうとも比喩すべき場所にいる自分が,オレの存在をずっと見守っているような気がする。
こんがらがってきたな…。
何よりもそれらはイメージだ。
この空か…。
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月9日)

浩平「帰るか」
その横を抜けて,歩き出す。
長森「うん」
長森が急いで横に並んだ。
長森「すごいね,真っ赤だよ,浩平」
浩平「そりゃ,おまえもだ」
長森「あはは,そうだよねー」
夕焼けの帰り道。
オレは斜めから差す陽に向かって,空を見上げた。
……
真っ赤な世界。
…どこまでも続く世界だ。
(『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ・1月14日)

放課後の喧噪に包まれる廊下。
下校する生徒が昇降口に集まる中,オレは階段を駆け上がっていた。
その最上階で,鉄の扉を押し開ける。
それは予感にも似たものだった。
真っ赤な夕焼け。
そして,そこに佇む女性。
 
不意に先輩が天井を仰ぐ。
みさき「…今日は,どんな赤かな?」
オレもつられるように視線を上に向ける。
不意に飛び込む赤い世界。
一面の赤。
だけど,一色じゃない。
様々な赤。
形も様々。
すべてを浸食するように。
空に浮かんでいた。
(『ONE〜輝く季節へ〜』川名みさきシナリオ・2月3日)

  以上の通り断片的な情景描写ではあるが,このことから,少なくとも「永遠の世界」の側から生活世界の側を遠く眺めることが可能だと思われる。「永遠の世界」が生活世界と地続きでリアルな,物理的・地理的に実在する場所であるということは,このことから察せられる。しかし,他方で,この「永遠の世界」は

そしてその世界には,向かえる場所もなく,訪れる時間もない。
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅰ)

永遠,たどり着けない。
どれだけ歩いていっても,あの赤く染まった世界にはたどり着けないのだ。
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅱ)

もう,そこからはどこにもいけない場所。
すべてを断ち切った,孤立した場所にぼくは,ずっと居続けていたいんだ。
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅲ)

でもたどり着ける島なんて,ないんだ。
ないんだよ。
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅴ)

ひどく内閉的であり,生活世界の側との隔絶感が著しい。このように,空を志向して浮遊していく「永遠の世界」の風景からは,大地―生活世界の側から決定的に遊離していく感覚がもたらされるところが大きい*18

*1:あるいは,生活世界に在りながらにして「オレ」(折原浩平)が「永遠の世界」を物語る場面もある。後述。

*2:「ぼく」は彼女のことを「きみ」ではなく「キミ」あるいは「みずか」と呼ぶ。彼女を巡っては,拙稿「Tactics/Key諸作品におけるジュブナイル的主題の変遷と展開―通時性と共時性―(その1)」注釈17(同人誌『永遠の現在』271頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収),then-d「Sweetheart,Sweetsland〜長森瑞佳論〜」2.「長森」と「みずか」の遊離,救いの言葉の行方(2006年8月初出,同人誌『永遠の現在』52頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収),火塚たつや「えいえんの在処―えいえんは届いたか?」注釈3(同人誌『永遠の現在』309頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収),cogni「麻枝准の文体/序論」注釈34(同人誌『永遠の現在』329頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収)ほか,諸説ある。前述。

*3:ONE〜輝く季節へ〜』プロローグより。単に,「ぼく」が目を閉じているだけかもしれない。背景画が省略されただけの可能性―Tactics/Key諸作品では結構あることだ―もあるが,作品外の要因は考慮しない。

*4:おそらくは,積乱雲だろうが,断定をあえて避ける。

*5:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅰより。

*6:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅱより。

*7:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅲより。「ぼく」は「また…悲しい風景だ」と独白し,「彼女」は「あたしにはキレイに見えるだけだけど…」とささやく。

*8:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅳより。

*9:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅴより。

*10:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅵより。

*11:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅶより。

*12:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅷより。単に,「ぼく」が目を閉じているだけかもしれない。背景画が省略されただけの可能性―Tactics/Key諸作品では結構あることだ―もあるが,作品外の要因は考慮しない。

*13:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅰより。

*14:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅱより。

*15:河口付近?

*16:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅱより。

*17:ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅶより。

*18:then-d「自己のコミュニケーションの彼方へ―『CLANNAD』論―」(2004年12月初出,同人誌『永遠の現在』174頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収)による指摘。