Tactics/Key諸作品におけるファンタジー世界観〜時系列の共鳴・共振ないし円環構造,もしくは共時性〜(7)

第2章 Tactics/Key諸作品のファンタジー世界観Ⅰ―『ONE〜輝く季節へ〜』の場合―

5.「永遠の世界」と生活世界の例外的な時制〜時系列の共鳴・共振〜

 

(2) オレは生活世界から,「永遠の世界」のぼくを既視する

  ところが,他方で,生活世界に在ったときの折原浩平に着目すると,彼は予感すべき「永遠の世界」を既に視ていると感じ,また,未到のはずの「永遠の世界」に自分が既に在って,逆にそこから見守られているような気がしていたという描写を見付けることができる。このような,未来の出来事を過去と把握し,確定的な未来現在に遡及すると解するような乖離的イメージの顕現は,彼の通時的感覚に揺らぎが生じていることを意味する。


こんがらがってきたな…。
何よりもそれらはイメージだ。
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月9日)

  そこで,ここでは,上述のような通時的感覚の揺らぎが,折原浩平の内面だけに留まらず,『ONE〜輝く季節へ〜」作品全体に通底するファンタジー世界観を成り立たせているということを検証しておきたい。というのも,実在する内面世界としての「永遠の世界」と生活世界との関連性については,両世界の物理的・地理的な位置付け―遊離した地続き性―だけでなく,両世界の時間的な相互関係にも,特徴を見出すことができるからである。
  どういうことかというと,生活世界と「永遠の世界」相互間の時系列については,前項で概観した通り,過去(生活世界)から現在(永遠の世界)に到る因果関係があるだけでなく,未来(永遠の世界)から現在(生活世界)に到る因果関係を見出すこともできるのである。すなわち,二つの世界の間では,時系列共鳴ないし共振している。確かに,生活世界と「永遠の世界」相互間の原則的な時系列は,プレイヤーキャラクターの「オレ」(折原浩平)が,生活世界でヒロインたちとの学園生活を過ごし,「永遠の世界」へと消え去った後,元の世界に残してきたヒロインとの絆の深さ次第で生活世界への帰還を果たす順である。しかし,ここでそのシナリオ構成が,生活世界から「永遠の世界」へと順序立てて叙述するのではなく,生活世界の描写の中途に「永遠の世界」の描写が挿入され,交互に叙述するものになっていることを踏まえると,二つの世界が力学的に相互に影響を及ぼし合っている可能性が想起されることになる(ただし,あくまでも抽象的な仄めかしである) *1
  以下は,上述の見解に基づき,シナリオごとに,生活世界と「永遠の世界」との間で時制に揺らぎが生じている場面を箇条書きしたものである。{▼▲}{▽△}は拙稿執筆者が付記した記号であり,その三角印の向きの照合関係は,そのまま生活世界と「永遠の世界」との間で交互影響関係が発生し,あるいは時系列が共鳴・共振していることを指摘するものである。{▼▲}は「永遠の世界」の固着を促し,他方で,{▽△}は「永遠の世界」の律動を志向する。

*1:then-d「『ONE』〜視点の問題を中心に〜」(2001年2月初出,同人誌『永遠の現在』19頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収)による検討。