Tactics/Key諸作品におけるファンタジー世界観〜時系列の共鳴・共振ないし円環構造,もしくは共時性〜(4)

第2章 Tactics/Key諸作品のファンタジー世界観Ⅰ―『ONE〜輝く季節へ〜』の場合―

3.人の想念が生み出す実在世界としての「永遠の世界」

  と同時に,「永遠の世界」が「ぼく」と「永遠の世界」に在る少女との口約束―「永遠の盟約」によって発生したという事実,そして,その背後には一貫して折原浩平の兄としての挫折と罪悪感―諦念が横たわっていることを踏まえると,「永遠の世界」には折原浩平の自意識的な内面世界としての要素があることも否定できない。かといって,「永遠の世界」がもっぱら内面世界に還元され得ないことは,上述の通りである。
  念のため補足すると,仮に,「永遠の世界」がもっぱら内面世界に還元されてしまうと,折原浩平が生活世界の住人から忘れられ,その存在が物理的に消失するという現象を説明することができなくなる。その存在が忘却され,物理的に消失した生活世界の住人は,折原浩平だけではないのだ。里村茜の幼なじみだった「あいつ」の例を想起せよ*1。しかも,「永遠の世界」から生活世界への折原浩平の帰還は,実況調一人称による叙述の主体が「オレ」(折原浩平)以外の第三者へ常に移り,出来事としての確定が図られている*2
  とするならば,「永遠の世界」とは,生活世界と地続きなまま―ただし遊離して―物理的・地理的に実在する内面世界である,と折衷的に把握することが最適ということになる*3


(ひとが存在しない場所にどうしてぼくは存在しようとするのだろう。もっと,ひとの賑わう町中や,暖かい家の中に存在すればいいのに)
(さあ…よくわかんないけど。でも,あなたの中の風景ってことは確かなんだよ)
(つまりそれは…ぼくの心を風景に置きかえてみたときの姿なんだろうか)
(だったら,少し悲しすぎる…?)
(『ONE〜輝く季節へ〜』永遠の世界Ⅲ)

  これは,換言すると,「永遠の世界」には,人の想念が呼応―共時(シンクロ)―して生み出すもう一つの実在世界としての側面があるということに他ならない。ちなみに,このようなファンタジー世界観は,Tactics/Key諸作品に特徴的なものであり,後発の『Kanon』における「夢の世界」,『AIR』における"The 1000th summer",『CLANNAD』における「幻想世界」,『リトルバスターズ!』における「虚構世界*4ないし「夢の世界」*5は,いずれもこの観点から読み解くことが有効な端緒となる。

*1:ONE〜輝く季節へ〜』里村茜シナリオ・1月5日より。

*2:ONE〜輝く季節へ〜』各個別シナリオ・エピローグより。

*3:火塚たつや「えいえんの在処―えいえんは届いたか?」(同人誌『永遠の現在』308頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収)による検討。

*4:一応,西園美魚シナリオで,「虚構」という言葉について触れる場面が一つあるのだが,秘密がある「この世界」のことを「虚構世界」と呼ぶ場面は一つもない。

*5:秘密がある「この世界」のことを手探り的に「夢」と言及する場面は極めて多いが,「夢の世界」と明言する場面はやはり一つもない。