Tactics/Key諸作品におけるファンタジー世界観〜時系列の共鳴・共振ないし円環構造,もしくは共時性〜(8)

第2章 Tactics/Key諸作品のファンタジー世界観Ⅰ―『ONE〜輝く季節へ〜』の場合―

5.「永遠の世界」と生活世界の例外的な時制〜時系列の共鳴・共振〜

 

(3) 共通シナリオ〜惹かれ合う生活世界と「永遠の世界」〜


虚無…。
意志を閉ざして,永遠に大海原に浮かぶぼくは,虚無のそんざいだった。
あって,ない。
でもそこへ,いつしかぼくは旅だっていたのだ。▼
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月1日就寝後/永遠の世界Ⅰ)

 
朝。
何かの喧噪で目が覚めたオレは,薄目を開けて枕元の時計に目を遣る。
蛍光色で加工された時計の針と文字盤が,薄闇の中で青白く浮かんでいた。
半分閉じかけた瞳を懸命にこらし,ぼやける視界の焦点を合わせる。
<選択肢:起きる>
静かだ。
そして,心地いい。
まるでこの世界で目覚めているのはオレ一人しかいないような錯覚さえ覚える。▲
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月2日起床時)


信号待ちをする最中,ふと空を見上げる。
そして,オレは不思議な概視感にとらわれた。
それは,涙が出てしまうような琴線に触れるものだった。
どこまでも続くようなこの空の果てに,もうひとつの自分の居場所を感じる。
そこで自分は,二度と帰ってはこれない,この場所を思うのだ。▼
浩平「………」
信号が青になったことも気づかず,オレはその空を眺めていた。
………。
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月4日放課後)

 
静止した世界。
べつに光景が止まっているわけじゃない。
光は動いているし,バイクの加速してゆくエンジン音だって聞こえる。
静止していたのは,それを見ている自分の世界だった。▲
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月4日就寝後/永遠の世界Ⅱ)


ずっと,動いている世界を止まっている世界から見ていた。▼
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月4日就寝後/永遠の世界Ⅱ)

 
横断歩道の前に立つと,何気なく空を見上げていた。
………。
どうしてだろう…よくわからない。
ずっと続いている違和感。
ふと感じるのは,客観的なイメージとして,今の自分がここに存在しているということだ。
どこか…つまり,あの空の向こうとも比喩すべき場所にいる自分が,オレの存在をずっと見守っているような気がする。▲
(『ONE〜輝く季節へ〜』共通シナリオ・12月9日放課後)

  こうしてみると,共通シナリオのうちは,二つの世界の間での交互影響関係,あるいは時系列の共鳴・共振は,一貫して「永遠の世界」の固着化を志向していることが明らかになってくる。