『リトルバスターズ!』伏線検証メモランダム:共通シナリオ・5月14日

 地道に『リトルバスターズ!』のテキストを分析していく作業の成れの果て。何が得られるのかは,やってみないと分からない。正直,作家論的アプローチに頼らざるを得ないのが目に見えているので,気分は敗戦処理。でも,がんばる。
 ただし,Refrain編であからさまに回収される伏線は,その場面で触れれば足りるので,いちいち考慮しない。(ネタバレ注意)
 

まるでみんな,昨日あったことなんてすっかり忘れてしまっているようだ。
でもそれが日常なんだから,みんな慣れてしまっているんだろう。
ただ僕ひとりは,彼らとは価値観が違うようで,戸惑ってばかりいた。
幼い日,出会った時から彼らはそんなふうだったのに。
何ひとつ変わっていない。
ただその戸惑いも,時間が経ってから思い出すと,自然と頬が緩む。
戸惑いながらも,楽しんでいることに気づく。
そして,また僕は願う。
こんな楽しい時間がいつまでも続きますようにと。

(『リトルバスターズ!』共通シナリオ・5月14日)

 前日に引き続き,直枝理樹の永遠願望が繰り返し描写される。やはり,彼がこの世界を「願っている」ことは,頭の片隅に控えておいたほうがよい。
 

【真人】「ここまで一緒だったオレたちも,その後は,散り散りになるかもな」
【謙吾】「少なくとも恭介は一年先にそうなる」
【真人】「考えたくねーな,そんな先のこと」
【恭介】「そうだな…」
そして,恭介もそれを願った。
【恭介】「今がずっと続けばいいのにな」
それは,なんとも心強い一言だった。
恭介が願うなら,本当にそうなるような気がした。

(『リトルバスターズ!』共通シナリオ・5月14日)

 四者四様の思惑が交差している。この場面での彼らの本音は,Refrain編で明かされる。ここで恭介の台詞を「心強い」と思う直枝理樹は,やはり永遠願望に強く惹かれているといわざるを得ない。しかも,自分の願望であるにもかかわらず,他者にその実現を依存するかのようなそぶりも見せている。
 

【理樹】「ねぇ,昔みたいに,みんなで何かしない?」
だから僕はそう提案していた。
 
【恭介】「野球チームを作る」
【恭介】「チーム名は…リトルバスターズだ」

オープニングムービー「Little Busters!

(『リトルバスターズ!』共通シナリオ・5月14日)

 Tactics/Key諸作品に頻出する「昔みたいに」のモチーフ。現在の過酷を受容し続けるための精神的な支えを,幸福な過去を擬似的に追体験することへ見出そうとする姿勢。『MOON.』天沢郁未シナリオ(少年手作りの食卓と椅子),『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ*1,『ONE〜輝く季節へ〜』上月澪シナリオ*2,『Kanon月宮あゆシナリオ*3,『Kanon美坂栞シナリオ*4,『CLANNAD一ノ瀬ことみシナリオ(ガーデニング)を想起せよ。
 ということは,今作でも,その姿勢自体は決して否定されないという推論が及ぶ。
 

オープニングムービー「Little Busters!

夢を見ていた。
僕はその内容を思い出すまいと,窓の外に視線を向け,グラウンドで行われているサッカーの試合に見入った。
いつものことだ。
意識を失うようにして突然僕が寝入ってしまうことは。
(中略)
でも,今の状態には少し違和感があった。
僕が昼に見る夢は決まって悪夢だ。
だから絶対に思い出さないようにしている。
だけど,今見ていた夢は思い出そうにも,思い出せない…そんな気がした。
僕は…果たして夢を見ていたのだろうか?

(『リトルバスターズ!』共通シナリオ・5月14日)

 「悪夢」がなんであるかはさておき(Refrain編“Episode:理樹”で言及される両親の死と,生活世界における修学旅行の事故の二つが考えられる),少なくとも,この世界の何が現実で何が夢であるのか,その境界は曖昧であるという視点が,早くも登場している。ちなみに,夢と現実の境界が曖昧だという感覚は,『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオで既出。

夢か…?
長森「浩平…気がついた…?」
長森が喋っている。
長森「もう,びっくりしたんだから…。床の上で倒れてるんだもの…」
夢の中の長森は,とても綺麗に見えた。どうしてこんなに綺麗なんだろう…。

(『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ・--月--日)

 それともう一つ,Tactcs/Key諸作品において,夢のガジェットは過去の際限ない延長としての永遠願望や,恒常的に変化する現在の過酷から逃避した果ての安らぎとして,位置付けられることが多い。しかし,「夢を見ていた」(『CLANNAD』OP「メグメル」歌詞を想起せよ)こと自体は,決して否定されるべきではなく,むしろ現在の過酷に立ち向かうための支えにすらなるというのが,『MOON.』『ONE〜輝く季節へ〜』『Kanon』『AIR』『CLANNAD』に通底する通時的態度であることを踏まえるならば,

【祐一】(…あ)
不意に,夢の断片が甦る。
【祐一】(…こいつが出てたような気がする)
寒そうに手を合わせている少女を改めて見つめる。
【あゆ】「…ど,どうしたの?」
【祐一】「変な夢を見た」
【あゆ】「夢?」
【祐一】「いや,別にたいしたことじゃないけどな」
【あゆ】「…ボクも見たよ,夢」

(『Kanon月宮あゆシナリオ・1月19日)

歩きながら,顔を上げる。
その先には閉ざすものなく,空が広がっていた。
遮へい物のひとつもない。
空と地上が目の高さでふたつに割れている。
【往人】(やっぱ田舎だな…)
さらに顎を高くあげて,視界から地上の物を消す。
一面が青に染まった。
【往人】「………」
すると,ついさっきバスに揺られて見ていた夢の続きを見ているような気がした。
そう,あれは確かに夢だった。

(『AIR』DREAM編共通シナリオ・7月17日)

透き通る夢を見ていた
柔らかい永遠
風のような微かな声が
高い空から僕を呼んでいる
このまま飛び立てば
どこにだって行ける

(『CLANNAD』OP「メグメル」歌詞)

リトルバスターズ!』の場合も,いずれ「夢を断」たなければならないとしても(OP「Little Busters!」歌詞),それまで「夢を見ていた」こと自体は,たとえそれがどんなに残酷なことだったとしても,その価値を決して否定してはならないという推定が働くことになる。だからこそ,直枝理樹がこの世界で見ている夢は「悪夢」ではないということが,この場面でそれとなく示唆されているのである。
 

【女生徒】「また猫と遊んでるんじゃないの?」
その言葉には皮肉が込められていた。
正直,クラス内で,鈴の同性からの人望は薄かった。
彼女は自己中心的でいつも猫のことばかり考えているし,その猫とのセットが男子からの人気が高いだけに,なおさら女生徒の神経を逆撫でしているようだった。

(『リトルバスターズ!』共通シナリオ・5月14日)

 直枝理樹の主観によるミスリード。Refrain編“さいごのゆめ”に向けられた気の長い伏線。
 

【理樹】「女子ともあんまり仲よくないでしょ?」
【鈴】「そんなことない」
【理樹】「え? 誰か仲のいい女子いたっけ?」
【鈴】「後ろの席の子」
【理樹】「あ,そうなんだ。なんて名前の子だっけ?」
【鈴】「ぅぅ…」
【理樹】「知らないの?」
【鈴】「………」
【理樹】「それで仲がいいってよく言えたね…」

(『リトルバスターズ!』共通シナリオ・5月14日)

 実は,この後ろの席の子が神北小毬ならば,Refrain編“さいごのゆめ”に向けた見事な伏線だったのだが,実際には違うようだ…。下記参照。

【鈴】「こまりちゃん…これ,つかえ」
近所の席の鈴が手裏剣のようにしゅぱっと教科書を投げる。
一度小毬さんのお尻に当たり,ちょうど椅子の上に落ちる。
【小毬】「あ…りんちゃんありがと〜」
それを拾い上げて礼を言う。

(『リトルバスターズ!』共通シナリオ・5月21日)

 少なくとも,棗鈴の後ろの席は,神北小毬ではない。でも,後ろの席が神北小毬だと美しいので,京都アニメーションさんによるテレビアニメ化の際には是非とも補正を(え)。
 

【謙吾】「俺は…」
謙吾が席を立つ。
【謙吾】「自らの意志で,剣を振るっている。ではな」
そのまま背を向け,食堂を出ていった。
【理樹】「謙吾っ」
【恭介】「放っておけ,理樹」
【恭介】「…あいつも理解してくれる日がくるさ」

(『リトルバスターズ!』共通シナリオ・5月21日)

 とりあえず,部活(剣道)を「自らの意志」で行っているかについて,Refrain編“Episode:謙吾”に向けられた伏線。しかし,この段階で,彼の態度から不自然さを読み取れるかどうかは無理があるような…。
 

そんな恭介だからこそ,僕は頼ったのかもしれない。
僕は勉強のことなんて忘れて,ただ遊びたいだけなのかもしれない。
自分を,そんな無規律な人間とは考えたくないけど。

(『リトルバスターズ!』共通シナリオ・5月14日)

 再三言及される直枝理樹の永遠願望と,Tactics/Key諸作品に頻出する「遊び」のモチーフとの関連付け。『ONE〜輝く季節へ〜』長森瑞佳シナリオ*5,『ONE〜輝く季節へ〜椎名繭シナリオ(けんぱ),『Kanon沢渡真琴シナリオ(いたずらと冬の花火),『AIR神尾観鈴シナリオ(遊びたいな),『AIR遠野美凪シナリオ(しゃぼん玉),『CLANNAD伊吹風子シナリオ(木彫りの配り歩き)を想起せよ。
 つまり,『リトルバスターズ!』でも,「遊び」が終わるときに注目しなければならないという推論が働く。