『リトルバスターズ!』来ヶ谷唯湖シナリオの6月20日問題について(その1)
来ヶ谷唯湖シナリオについて,「夢の世界」ないし「虚構世界」のループが発生する6月20日は,リトルバスターズのメンバーが現実(生活世界)の修学旅行で事故に遭う日ではないかという見解を見受けるのですが,棗鈴シナリオ(2周目)を検討する限り,このような見解だと矛盾を避けることができず,少なくとも整合的な解釈ではなくなってしまうようです。(ネタバレ注意)
以下,棗鈴シナリオ(2周目)のタイムシートを追ってみましょう。
※この日以降,システム上,特定の日付は表示されなくなる。
- 5月28日(月)[最短]
休み時間。
鈴が神妙な顔つきでやってきた。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 5月31日(木)[最短]
- マイルスとのお別れの日
鈴は,マイルスを愛し続けた。
マイルスが亡くなったのは,三日後の晩だ。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月1日(金)[最短]
- マイルスのお墓を作ってあげた日
翌朝,みんなで墓を作ってあげた。
(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月4日(月)[最短]
- 杉坂さんのラブレターが投函されていた日
ある日のこと。
僕の靴箱の中に,封筒が入っていた。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月5日(火)[最短]
- 棗鈴と直枝理樹が付き合い始める日
でも,まだ僕たちはこのとき。
――恋すらも知らなかった。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
それから,二日ばかり過ごした後のことだった。
(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月12日(火)[最短]
- 直枝理樹が棗鈴に交換留学を勧める日
翌日。
鈴は猫の群衆の中で,紙切れをじっと見つめていた。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月13日(水)[最短]
- 棗鈴の交換留学が発表される日
そうか。真人もずっと前からこの話を知っていたんだ。
真人は昨日からじゃなく,その前から,中立の位置に立ち続けていたんだ。
鈴が交換生として選ばれたことは朝のHRで発表された。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月16日(土)[最短]
- 棗鈴が交換留学に出発する日
別れの朝。
僕は,今日まで正面切って,鈴と顔を合わせることができなかった。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月18日(月)[最短]
- 棗鈴の交換留学1日目
夜,鈴からメールが届いた。
(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月19日(火)[最短]
- 棗鈴の交換留学2日目
翌日の昼休み。
【理樹】「小毬さん」
【小毬】「うん?」
【理樹】「携帯なんだけどさ」(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
翌日,小毬さんは学校を休んだ。
【恭介】「後三日頑張れ」
目も合わせず恭介は言った。
【理樹】「…え?」
その横顔は無表情のままだ。
【恭介】「次の土曜には戻ってこれるようにする」(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月23日(土)[最短]
- 棗鈴が一時帰宅で学園に戻ってくる日
タクシーが停車する。
ドアが開き,降りてきた鈴は,まるで上流家庭のお嬢様のようだった。
僕は一週間前,立ち去った日の鈴をよく見ていなかったから,その姿は新鮮に映った。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月24日(日)[最短]
- 棗恭介と野球勝負をする日
【恭介】「コールドゲームだ」
(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月25日(月)[最短]
- 棗鈴と直枝理樹が駆け落ちし,鈴の祖父宅に到着する日
長い夜が明けた。
まだ西の空は暗い。
運動部の早朝練習組が起き出すまでも,まだまだある。
その朝,僕たちは逃げ出した。
長旅になった。
祖父の家に着いたのは,夕方だった。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月26日(火)[最短]
気が付いた時には朝だった。
(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月27日(水)[最短]
- 理樹が畑仕事を始める日
かまどに火を起こし,昨日の夕食の残りを温めてからちゃぶ台に並べておく。
(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月28日(木)[最短]
- 直枝理樹がナルコレプシーで倒れたり,所持金が尽きる日
うつらうつらしながらも,何とか朝ご飯の用意を済ませ(昨日の残り物だけど),今日も畑仕事の手伝いへと行った。
目が覚めると夕方近くまで日は落ちていた。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月29日(金)[最短]
- 直枝理樹が魚釣りを始める日
結局,夕方に小さな魚をもう一匹釣り上げただけで,その日は終わった。
(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 6月30日(土)[最短]
一日,木陰で魚釣りに勤しむ。
(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- これ以降,直枝理樹の時間感覚が薄れていく
魚は釣れない日もあった。
調子がよく,十数匹釣った日もあったけど,全部食べられるとはかぎらない。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
次第に月日の感覚がなくなっていく。
チャンネル数の少ないテレビだけが曜日を教えてくれる。
鈴を起こして,食事を作り,魚釣りを繰り返す毎日。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 直枝理樹と棗鈴が連れ戻される日
【声】「ちょっといいかな?」
声がかけられた。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
- 棗鈴シナリオ2周目のラストシーンの日
…修学旅行の話題だ。
クラスが一番打ち解けられる行事なのに…。(『リトルバスターズ!』棗鈴シナリオ2周目)
棗鈴シナリオ(2周目)のラストシーンは,修学旅行よりも前の日ですが,上記の分析を踏まえると,少なくともこの世界での修学旅行は,6月20日どころか,7月1日以降でなければならないことになります。いずれにせよ,現実(生活世界)での修学旅行の日付が6月20日であるべき設定上の必然はありません。
しかも,棗鈴シナリオ(2周目)について,そのラストシーンまでの全体を通じて,棗恭介が記憶を次のループ以降に繰り越していることは,“Episode:恭介”で明かされています。したがって,棗鈴シナリオ(2周目)において,棗恭介は最後まで固有の存在だったということになりますから,彼の想念(波紋)の影響が棗鈴シナリオ(2周目)の「夢の世界」ないし「虚構世界」には及んでいて,修学旅行の日付は現実(生活世界)と同じものになっているはずです。
とするならば,6月20日の日付を経過しても,棗恭介の想念(波紋)の影響が及ぶ「夢の世界」ないし「虚構世界」としてならば,その世界は続行可能だということが察せられます。
ちなみに,棗鈴シナリオ(2周目)のラストシーンのイベントCGで,直枝理樹の制服が冬服であることに着目すると,修学旅行は10月1日以降という見方すら可能でした。というのも,本来,制服のある高校ならば,夏服の着用期間は6月1日〜9月30日というのが通例ですし,仮に6月30日までは移行期間として夏冬両方着用可能だとしても,7月1日以降も冬服ということはあり得ないからです。もっとも,この点については,棗恭介が修学旅行の日付について,“Last Episode:Little Busters”で「『事故が起きる』までの一学期」と言明していますから,せいぜい7月の1学期終業式前ということにしておけばいいのでしょう(はっきりいって,冬服に見えてしまうのは,制服設定上の作画ミスだと思います)。
もっとも,棗恭介による「夢の世界」ないし「虚構世界」の解説は,『Kanon』での美坂栞による「夢の世界」の解説並みに,鵜呑みにはできないものだと思われるのですが(そのまま受け容れるには矛盾が目立ち,仄めかし程度にしか許容できないのです),それはまた別の,ロウ・ファンタジーの深遠にどっぷり浸かるときのお話。
確かに,来ヶ谷唯湖シナリオのラストシーン解釈は,『リトルバスターズ!』の根幹―特に“Epilogue(1周目)”と“Epilogue(2周目)”の意義―を揺るがす重大な問題を含んでいるとは思われるのですが,これ以上の検討は日を改めて。とりあえず,今日はこのくらいで。(文責:ぴ)