剣と魔法のファンタジー/文芸様式としてのファンタジー

/* 初出:http://d.hatena.ne.jp/milkyhorse/20061024/p1#c2-1 */
 

ファンタジー文学とは

 <ファンタジー文学>とは,一般的には,幻想的・空想的な要素といった仮想の設定の下,世界観を構築する芸術表現技法のことである。
 仮想的なあらゆる設定を排斥し,現実世界にのみ準拠した世界観を構築する<リアリズム文学>に対するアンチテーゼとして位置付けられるものである。そして,このファンタジー文学はさらに二類型に分岐する。<剣と魔法のファンタジー>と<文芸様式としてのファンタジー>である*1
 

剣と魔法のファンタジーとは

 前者の<剣と魔法のファンタジーとは,異世界(現実世界とは別の世界)を舞台に,緻密かつ詳細な世界観を展開する物語のことである。
 その代表作として「指輪物語」「ゲド戦記」「ナルニア国ものがたり」(いわゆる,世界三大ファンタジー)が挙げられる通り,単に<ファンタジー>というときはこの<剣と魔法のファンタジー>を指しているのが通例である。
 

文芸様式としてのファンタジーとは

 これに対して,後者の<文芸様式としてのファンタジーとは,古典的意味における<ファンタジー>のことであり,幻想的・空想的な要素といった仮想の設定を所与の前提として,抽象的かつ不条理なままの世界観を当然視する物語のことである。
 <剣と魔法のファンタジー>がその世界観を緻密かつ詳細に描写することに重きを置くのに対して,<文芸様式としてのファンタジー>は,現実世界におけるリアリズムの絶対性―その存在が疑われることもなく,説明を要するまでもなく,ただ実在すると断言される―を,そのまま自らの世界観に置換する。つまり,“存在”する以上,その存在を疑うことはもはや無意味であり,そこに“説明”を求めることもまた,無意味なものである。このようなテーゼに基づいて,架空世界こそがリアリズムそのものだとみなすわけである*2
 叙事詩や神話,天地創造の起源譚といった非写実的な口承文芸がその代表例ということになる。
 <文芸様式としてのファンタジー>は,少なくとも,写実的な<リアリズム文学>の様式に連なるものではないので,リアリティを無視しているという批判は妥当しないし,<リアリズム文学>に即した解釈を無理やりひねり出すことも無用とされる。(文責:ぴ)