Tactics/Key諸作品におけるファンタジー世界観〜時系列の共鳴・共振ないし円環構造,もしくは共時性〜(13)

第2章 Tactics/Key諸作品のファンタジー世界観Ⅰ―『ONE〜輝く季節へ〜』の場合―

5.「永遠の世界」と生活世界の例外的な時制〜時系列の共鳴・共振〜

 

(9) 小まとめ〜時制の乱れを誘発する時系列の共鳴・共振ないし円環構造〜

  以上,実に長々と,『ONE〜輝く季節へ〜』各シナリオについて,生活世界と「永遠の世界」との間で交互影響関係,あるいは時系列の共鳴・共振が生じていると解釈できる余地を検討してみた。
  これは,換言すると,『ONE〜輝く季節へ〜』の物語中の出来事は,「過去→現在→未来」の時系列順に因果関係を把握することができないということである。たとえば,現在の折原浩平は,過去に確定された取り返しのつかない未来のせいで悲しむ。すなわち,現在の原因は未来であり,未来の原因は過去にある。その因果関係には時系列の倒錯があるといわざるを得ない。このような時制の乱れ*1は,Tactics/Key諸作品のシナリオ文体上の特徴として指摘されているところだが*2,『ONE〜輝く季節へ〜』のファンタジー世界観には,時制の乱れを周到に関連付ける側面もあるというべきなのである。
  そして,このような時制の乱れを誘発する―時系列の共鳴・共振ないし円環構造もまた,Tactics/Key諸作品のファンタジー世界観に特徴的なものであり,後発の『Kanon』における「夢の世界」,『AIR』における"The 1000th summer",『CLANNAD』における「幻想世界」,『リトルバスターズ!』における「虚構世界」*3ないし「夢の世界」*4は,いずれもこの観点から読み解くことが有効な端緒となるのである。

*1:たとえば,『AIR』オープニングテーマ「鳥の詩」(作詞:麻枝准)では,「変わらずにいられなかったこと悔しくて指を離す」が,もともとは,指を離したせいで変わらずにいられなかったのであり,変わらずにいられなかったから悔しいのではないのか。ところが,指を離す現在の原因は全て未来にあり,過去からの因果律が欠落している。

*2:cogni「麻枝准の文体/序論」(同人誌『永遠の現在』328頁(2007年8月,C72,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html)所収),今木「CLOSED LOOP」2004年8月17日の項(http://imaki.hp.infoseek.co.jp/200408.html#17)/2002年8月10日の項(http://imaki.hp.infoseek.co.jp/p0208.shtml#10)による検討。

*3:一応,西園美魚シナリオで,「虚構」という言葉について触れる場面が一つあるのだが,秘密がある「この世界」のことを「虚構世界」と呼ぶ場面は一つもない。

*4:秘密がある「この世界」のことを手探り的に「夢」と言及する場面は極めて多いが,「夢の世界」と明言する場面はやはり一つもない。