テレビアニメ『CLANNAD』(BS-i)第04話「仲間をさがそう」ネタバレおぼえがき(その2)

 関東圏・TBSでの放送から3週間遅れ(実質4話遅れ)の挙句,さらにBS-iでの放送からタイムラグがあるという,ひどく執筆のモチベーションが下がりっぱなしな箇条書き。何が得られるのかは,やってみないと分からない。長文を速記できる才能がほしい(切実に)。でも,がんばる。一応,テレビアニメ版・京アニCLANNAD』に関する言及のつもりである。(それでも原作のネタバレ注意)
 
 

2.古河渚の信頼に感化され,彼女に協力する春原陽平〜仄見えてくる支え合いの循環構造Ⅱ〜

 第4話「仲間をさがそう」では,いろんな意味で名脇役春原陽平が大活躍だったわけだが,とりわけても今回は,古河渚岡崎朋也の演劇部再建計画に彼がいかに関わってきたか,その栄光と軌跡について,まじまじと箇条書きしてみたい。
 


 
 演劇部再建計画に対する春原陽平の最初のリアクションは,第2話「最初の一歩」Bパートで描かれており,当欄でも以前検討しているので,ここでも引用しておこう。

【春原】「しかし,演劇部ねぇ」
【春原】「お前がまた部活なんて忌まわしいものに興味を持つなんて,驚いたよ」
【春原】「おまえ,部活してる連中なんて,吐き気がするほど嫌いって思ってたんだけどねえ」

(TVA・京アニCLANNAD』第2話「最初の一歩」Bパート)

 第2話「最初の一歩」Bパート後半,岡崎朋也が部活を嫌っているという事情が春原陽平によって明かされる。このとき,不良*1のはずが実はお笑い担当春原陽平にしては,珍しく嫌味な含み笑いを浮かべており,彼が岡崎朋也の「退屈しのぎ」にシニカルな感想を持っていることが察せられる。
 しかも,岡崎朋也が彼に対する威嚇的な視線を投げ付けたままであるにもかかわらず,春原陽平のほうも,皮肉調の言葉を途中でつぐんだりはしない。平素,結構投げやりな会話しかしていないにもかかわらず,ここで互いに譲れない態度を突き付け合うということは,岡崎朋也だけでなく,春原陽平にとっても,部活関連の話題には何か頑ななタブーがあるという暗示なのかもしれない。
 このときの岡崎朋也春原陽平との会話は,古河渚に聞かれてしまっていたのだが,古河渚岡崎朋也に呼びかけるのは,春原陽平が立ち去ってから間がない。ということは,春原陽平は,古河渚が近付いてきたのを知って,彼女のことをさりげなく無視しながらいなくなったことになる。この頃の春原陽平にとって,古河渚は赤の他人でどうでもいい存在だということの証左である。
 


 
 次に春原陽平岡崎朋也古河渚に遭遇するのは,第4話「仲間をさがそう」アバンタイトルである。生徒会対策を屋外のラウンジで話し込む二人の姿を見かけた彼は,物陰から皮肉っぽい笑みを浮かべながら生温かく見守っていた。

【春原】「ふうん…」

(TVA・京アニCLANNAD』第4話「仲間をさがそう」アバンタイトル

 


 
 その日の夜,まったりと自室のコタツでくつろぐ春原陽平は,相変わらず彼の部屋に入り浸っている岡崎朋也に対して,茶化し気味に話題を振る。それにしても,このときの彼の顔は,冷やかす気満々で実に楽しそうだな。

【春原】「おまえさ,あの演劇部の子と付き合ってるわけ?」
【朋也】「はあ?」
【春原】「おまえが部活なんておかしいと思ったけど,そういうことなら理解できるね」
(中略)
【春原】「うお…マジかよ…」
【朋也】「でなきゃ,俺が演劇部なんかに関わるわけないだろ」
【春原】「まあ,確かにおまえとじゃ,つり合わないタイプだったなあ」
【春原】「地味だし,まじめそうだし」

 春原陽平は(良い意味で)アホなので,岡崎朋也をイジっているつもりがしっかり彼からいじり返されていることはさておくとして,あくまでも,岡崎朋也が部活に真剣に取り組むことはあり得ないという考えに彼が固執していることは見逃せない。それと,さりげなく古河渚についての第一印象が辛口だし,今の岡崎朋也古河渚への接し方が,従来の彼を知る者にとっては,柄にもないことをしているようにしか映らないことを春原陽平の台詞は示唆している。
 


 

【春原】「話は聞かせてもらったよ」

 次に春原陽平が演劇部絡みで登場するのは,やはり岡崎朋也古河渚が演劇部の部室で部員集めの対策を練っているときである。彼は颯爽と格好良く登場したつもりだろうが,演劇部側の二人との温度差はすごいものがある(春原の顔の絆創膏にはあえて触れまい)。
 もちろん,彼が演劇部の部員集めへの協力を申し出たのは,「学食のパンも食い飽きたしねぇ」という邪念(えー)ゆえなわけだし,最初に提案する方法も生徒会長の闇討ちだったりと,到底まともではない。
 

【古河】「でも,お気持ちはうれしいです。ぜひ,力を貸してください」
【春原】「ふん。おっけー。任しといて」

 ところが,古河渚春原陽平の参加を素直に喜んでくれるものだから,彼はすぐご機嫌になってしまう。「ぜひ,力を貸してください」と古河渚から素直な返事を受けた直後,春原陽平が一瞬見せた素な表情に注目すると,彼の心情の機微が透けて見えて,結構味わい深い。
 

【春原】「あのさぁ,自分らだけで考えてても仕方ないと思うんだよね」
【春原】「それより,誰かに相談したほうがいいんじゃないの」
【古河】「確かにそうかもしれません」

 それどころか,その次には,春原ともあろう者が,思わずまともなアドバイスをしてしまっているのである。常日頃の春原陽平の態度を良く知る岡崎朋也は半信半疑でいるようだが,このとき春原陽平は意外とまっとうな表情を浮かべている。要するに,彼にしてみれば,古河渚の反応がいちいち素直なものだから,どんどんノリが良くなってしまっているわけである。
 


 

【杏】「ねえ,あんた,こんなのしか友達いないの?」
【古河】「友達,といいますか,演劇部再建を手伝っていただいてるんです」
【杏】「…どうせ,なんか裏があるんでしょ」
【杏】「ねえ,こんな連中見限って,あたしたちと仲良くしない?」
【古河】「え? あの…」

 さらに面白いのは,藤林杏から辛口なコメントを浴びせかけられたときである。ちなみに,本当の見所は,藤林杏春原陽平岡崎朋也古河渚のようなタイプの娘と接点があることを訝しんだり,春原陽平岡崎朋也から古河渚をさりげなく切り離そうとする様子の深読みなのだろうが,ここではあえて触れない。
 

【春原】「えらい言われようだね…」
【朋也】「実際,おまえはパンが目的だろ」

 このとき,春原陽平は,そのような見方は心外だと,少し思っているようだ。本当のことを言われているだけなのにもかかわらず。
 

【古河】「あの…お気持ちはありがたいんですけど」
【古河】「今まで手伝ってくれた人を置いていくわけにはいかないです」
【古河】「岡崎さんも春原さんも,いい方です

 すると,古河渚も,春原陽平のことをかばってくれるではないか。ちなみに,本当の見所は,「岡崎さんも…」と古河渚の口から彼の話題が出たときに,藤林杏藤林椋の横顔をちらりと覗く様子の深読みなのだろうが,ここではあえて触れない。
 

古河渚藤林椋には聞こえないように)
【杏】「うまく懐柔したみたいだけど…」
【杏】「まさかあんた,この娘のこと狙ってたりするわけ?」
【朋也】「んなわけねーだろ」

 ちなみに,この二人のやり取りは,テレビアニメ版のオリジナルである。ここに挿入された演出意図については,やはりあえて触れない。二人のひそひそ話を覗き見る春原陽平というレイアウトは,実はポイントが高い。彼が一流の観察者であることの証左に他ならないからである。
 そんな,テレビアニメ版オリジナル藤林杏シナリオに向けた伏線検証はさておき(えー)。
 


 

【春原】「冗談じゃないよ」
【春原】「僕らが演劇なんて興味あるかっての。な?」
【朋也】「チラシやポスターでの募集はできなくても,普通に勧誘するなら問題ありません,か」
【春原】「お。兄さん,意外だねえ。まじめに手伝う気,あるんじゃん」
【朋也】「そりゃ,まじめにやらなきゃ,パンがもらえないからな」
【春原】「僕も本腰入れて渚ちゃんに協力するかなあ」
【春原】「素直で,いい子っぽいし。仲良くなれば,学校も楽しくなりそうだしね」

 かなり駄目な動機で古河渚の演劇部再建計画に関わろうとしていた春原陽平だったが,思いがけず彼女から素直に信用されてしまうと,やはり嬉しくなってしまったらしい。彼女についての評価も当初から一変し,すっかり協力する気になってしまったようである。ただし,岡崎朋也も「まじめに手伝う気」があるか探りを入れてから,安心してデレ始める辺り,やはり春原陽平は一流の観察者であると唸らざるを得ない。
 今回のエピソードでは,どんなに岡崎朋也がうそぶこうとも,彼は古河渚の演劇部再建をまじめに手伝っていることが第三者春原陽平)の視点から確認されるとともに,もうひとつ,不純な動機が出発点だったにもかかわらず思いがけず相手から信頼されたことによって,「渚ちゃんに協力する」と「僕も…学校が楽しくなりそうだ」というふうに,春原陽平古河渚との間にも緩やかな支え合いの構図が成立したところがポイントだろう。岡崎朋也古河渚のそれと比べると,スケールはいかにもささやかだが,これもまた“人と人との横の繋がり”の一局面には違いないのである(坂上智代と古河渚での別の例)。
 


 

【朋也】「おまえもたまにはいいこと言うな
【春原】「僕は本質的にはいいやつだからね」

 こうしてみると,テレビアニメ版では,岡崎朋也だけでなく春原陽平であっても,部活絡みで自分の事情はさておき(これも今後に繰り越すべきポイントになるだろう),他人事についてならば,部活の夢を追いかけることに協力できる心根を最初から持ち合わせていることが分かる(本人がどこまで自覚しているかはさておき)。
 なお,今回採り上げた春原陽平が演劇部再建に関わっていくエピソードは,その細部が原作ゲーム版から大幅に改変されている。そもそも,原作ゲーム版の春原陽平は,原作ゲーム版の岡崎朋也以上にひねくれた対人距離感を計る人物だったため,古河渚と初対面のときに彼女からジュースをおごってもらってもお礼のひとつも言わないし(フラグ次第だが)*2,顔見知りになって彼女から挨拶されても完全に無視したり*3,彼女から演劇部に誘われても「馬鹿か,この子は…」と呟いたりする*4など,かなり冷笑的に彼女に接することが当初多かった。「あの子」呼ばわりして,古河渚の名前を呼ぼうともしないし。
 そんな斜に構えていた春原陽平が,ある事件をきっかけにして,「古河!」と初めて名前を叫びながら彼女のために激怒してみせたり*5,ついにニコニコと「渚ちゃん」と呼びかける*6までになる過程が原作ゲーム版の妙味の一つだったのだが,どうやらテレビアニメ版では,古河渚シナリオより伊吹風子シナリオを先行させるシリーズ構成の都合上,春原陽平古河渚との関係性についても,異なるアプローチを採ることにした模様である。(文責:ぴ)
 

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*1:といっても,進学校での相対的落ちこぼれに対する周囲からのラベリングが大きいように思われるが。

*2:CLANNAD古河渚シナリオ・4月18日。

*3:CLANNAD古河渚シナリオ・4月21日。

*4:CLANNAD古河渚シナリオ・4月22日。

*5:CLANNAD古河渚シナリオ・4月24日。

*6:CLANNAD古河渚シナリオ・4月25日。