テレビアニメ『CLANNAD』(BS-i)第01話「桜舞い散る坂道で」ネタバレおぼえがき(その4)

 関東圏・TBSでの放送から3週間遅れ(実質4話遅れ)の挙句,さらにBS-iでの放送からタイムラグがあるという,ひどく執筆のモチベーションが下がりっぱなしな箇条書き。何が得られるのかは,やってみないと分からない。長文を速記できる才能がほしい(切実に)。でも,がんばる。一応,テレビアニメ版・京アニCLANNAD』に関する言及のつもりである。(それでも原作のネタバレ注意)
 
 

4.二人の立ち位置と距離感からみる岡崎朋也古河渚の急接近

 第1話のAパートからBパートにかけて,岡崎朋也古河渚の関係性がどのように描写されていったかについては,二人の立ち位置と距離感を追いかけてみると,緩急を繰り返しながらも,確実に接近しつつあることがよく分かる。


(TVA・京アニCLANNAD』第1話「桜舞い散る坂道で」Aパート&Bパート)

 どういうわけか,岡崎朋也の方から古河渚に対して,それなりに快活,一方的に視線を向けて話しかけていくというのが,初期の図式である。どちらかといえば,古河渚の方は,声色からして沈鬱感を帯びているし,身体の姿勢は正面を向いたまま,岡崎朋也からの話しかけに応じるときだけ顔を彼の方に向けるが,むしろ視線を逸らすことのほうが多い。同じ石垣に腰掛けていながら,二人の距離感は,背景の太い木が挟まるくらい離れている。
 ところが,不良グループの殴り込みを坂上智代が撃退する事件に遭遇したとき,野次馬に押しかけた二人は,坂上智代の振る舞いに注目しているうち,同じものを見つめて視線を共有し,不意に寄り添ってしまう。

(TVA・京アニCLANNAD』第1話「桜舞い散る坂道で」Bパート)

 そんな突発的な出来事を経由した後,岡崎朋也古河渚は中庭に引き返して,再び腰掛ける。二人の距離感は以前に戻って再び遠ざかるが,岡崎朋也の方は何となく気を許してしまったのか,足を伸ばして座るようになる。そして,留年と転入で立場は違っても,学内に知り合いがいない同じところからスタートしたはずの坂上智代が堂々と振る舞っている姿に感化されたのか,古河渚の口調も,それ以前と比べて少し覇気が出てくる*1

【女の子】「転入生…なんですね,さっきの人」
【朋也】「あんたと似たような立場なのに,あれだけ人気があるんだ」
【朋也】「要は,本人次第ってことさ」
【女の子】「…そうなのかもしれませんね」

(TVA・京アニCLANNAD』第1話「桜舞い散る坂道で」Bパート)

 自己紹介をして名乗り合うと,古河渚は,距離感を変えないままながらも,岡崎朋也の方に身体ごと正面を向くようになり,身を乗り出すようになる。二人とも,自然に笑顔を見せることができるようになり,和らいだ雰囲気が生まれる。


 放課後,古河渚が演劇部の入部申し込みに行くことができるのか気になった岡崎朋也は,旧校舎の3階にある文科系の部室棟に顔を出すのだが,このとき,演劇部の部室の扉を開けたまま廊下に立ち尽くす古河渚の姿を見かけた彼は,思わず彼女の許へと走り寄ってしまう。走り寄った勢いでそのまま並び立つと,同じものを見つめて視線を共有する二人の構図が反復される。そして,しんみりと空き部室を眺めながら,岡崎朋也古河渚を呼び止めるため,ぽんっと彼女の頭に手を置く。
 ここでも,坂上智代の初登場シーンに引き続き,突発的な出来事が,二人の距離感をにわかに縮める牽引力になるという図式が繰り返されているわけである。

【古河】「………」
【朋也】「………」
ぽむ,と彼女の小さな頭に手を置く。※*2
【古河】「岡崎さん…いらっしゃったんですか」
【朋也】「ああ」
【古河】「この手は…なんですか?」
【朋也】「いや,別に」
【古河】「………」
【朋也】「………」
しばらく彼女は呆然と,俺はその後ろで彼女の頭に手を置いて,ふたり立ち尽くしていた。※
端から見れば,おかしなふたりだっただろう。※


(TVA・京アニCLANNAD』第1話「桜舞い散る坂道で」Bパート)


 この後,校門脇の芝生(中庭に比べて衆人環視の場所で,しかもより地べたである)に座り込んで話を続ける場面になると,そっぽを向いて視線を逸らしがちだった昼休みとは異なり,二人は自然と相手を視野に入れて会話するようになっている。古河渚の脇で岡崎朋也寝そべっていても互いに気にとめる風でもないし,そもそも,(石垣に腰掛けるのと比べて)芝生に座り込むという落ち着きぶりといい,二人の位置取りが寄り添うように近接していることといい,岡崎朋也古河渚がこの頃にはすっかり気を許し合っていることが分かる。
 その結果,初対面同然であるにもかかわらず,一緒に下校することがもはや自然の成り行きとなっている。


(TVA・京アニCLANNAD』第1話「桜舞い散る坂道で」Bパート)


 そんな成り行きで古河家の夕食にも招待されてしまう岡崎朋也だが,この頃になると,身体同士の距離が離れていようとも,彼は無意識のうちに古河渚視界に追いかけるようになっていて,彼女もまた,そんな視線を受け入れて見返すことが自然な振る舞いになっている。

(TVA・京アニCLANNAD』第1話「桜舞い散る坂道で」Bパート)

 そして,真正面で向き合って食事をし,夜の帰り道を並んで歩きながら語らい,別れ際には立ち止まってやはり真正面から向き合う。このとき,横断歩道の白色ペイントによる縞模様から二人の立ち位置と距離感が分かるが,Aパートの頃から振り返ってみると,その接近振りが際立っていることは明らかだろう。


 こうしてカットを並べてみると,TVA・京アニCLANNAD』は映像媒体ならではの工夫で,岡崎朋也古河渚の接近を段階を踏んで精密に描写していることが分かるのだが,いかんせん原作ゲーム版ならば2〜3時間のプレイ時間をかけて読み進める内容を20分弱の視聴時間に圧縮しているため,視聴者側としては,テンポがとてつもなく急ピッチでストーリー展開が速すぎるように体感してしまうのも,やむを得ないだろう。そもそも,テレビアニメ版の第1話は,その時系列が同じ1日の出来事になっているので,朝に出会ったばかりの岡崎朋也古河渚が夕方にはすっかり親密になっている因果関係を実感できるのは容易でない。
 他方で,原作ゲーム版をプレイ中の読み手側の体感時間としては,テレビアニメ版のワンカットごとに1日くらいの時系列を要していて,二人の仲は暫時的に接近していったという印象があり,この間の因果関係に不自然さを覚えることもなかったように思われる*3。ところが,何と原作でもこの間の時系列は,わずか2〜3日の出来事になっていたのである。シナリオ上の時系列の短さにもかかわらず,原作ゲーム版ではその展開の強引さが目立たないのは,要するプレイ時間の長さで読み手側の体感時間が補正されてしまうためではないだろうか。
 とするならば,視聴者の体感時間をごまかせないテレビアニメ版の第1話に,演出上の急ピッチとストーリー上の説得力の弱さが伴ってしまうとするならば,それはある意味,原作シナリオ構造上の問題点がそのまま反映されてしまった結果ということになるのだろう。(文責:ぴ)
 
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*1:こんなところでもさりげなく,古河渚坂上智代の間で,迂遠かつ暫時的な“横の繋がり”が発生している。

*2:※印を付記した行の地書きは,テレビアニメ版にはないが,相応する映像描写がある分を,原作から補ったものである。

*3:ここは,当欄執筆者の個人的感想です。