テレビアニメ『CLANNAD』(BS-i)第01話「桜舞い散る坂道で」ネタバレおぼえがき(その3)
関東圏・TBSでの放送から3週間遅れ(実質4話遅れ)の挙句,さらにBS-iでの放送からタイムラグがあるという,ひどく執筆のモチベーションが下がりっぱなしな箇条書き。何が得られるのかは,やってみないと分からない。長文を速記できる才能がほしい(切実に)。でも,がんばる。一応,テレビアニメ版・京アニ『CLANNAD』に関する言及のつもりである。(それでも原作のネタバレ注意)
3.「一瞬,光が揺らいだ」そのとき,『CLANNAD』に始まりの律動がもたらされる
変わることを望みつつも倦怠感に囚われた少年と,変わらずにはいられないことを悲しんで立ち尽くす少女。そんな二人が「出会うことによって世界が変わる」瞬間,世界が彩られる。ただし,ここでモノトーンからカラーへ全画面が一瞬で切り替わるのではなく,二度に分けて,しかも「そのとき,一瞬,光が揺らいだ」ように切り替わったところに,大きな意味があるということを強調しておきたい。
(TVA『涼宮ハルヒの憂鬱』放映話数第2話「涼宮ハルヒの憂鬱Ⅰ」アバンタイトル) つまり,こんなふうに,一瞬にして全画面がモノトーンからカラーに切り替わるのではなく,
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(TVA・京アニ『CLANNAD』第1話「桜舞い散る坂道で」アバンタイトル) 「そのとき,一瞬,光が揺らいだ」ようにモノトーンからカラーに切り替わるのには,大きな理由があるというお話。
しかも,カラー映像に切り替わった後,三度目の光の揺らぎまで描写されているのだから,モノトーンからカラーへの切り替わりよりも,むしろ「光の揺らぎ」の反復表現の方が重要かもしれないというお話。
端的にいうならば,この生活世界の始まりのシーンで,世界が「そのとき,一瞬,光が揺らいだ」ように彩られるのは,以下の通りAパートに挿入された“幻想世界Ⅰ”で「僕の声」が幻想世界の少女に気付く瞬間の光の揺らぎと対比になっているからである。
ここは,終わってしまった世界。
何も生まれず,何も死なない。
過ぎゆく時間すら,存在しない。
もし僕が,生まれる場所を探しているのなら…
この世界を選んではいけないと思った。
(そのとき,一瞬,光が揺らいだ。)
こんな世界に,人がいた。
僕が見えるのだろうか。
僕はこの世界に生まれていない。
終わった世界で,ひとりぼっちで暮らす少女。
空虚な,静止した世界に生きる少女。
僕は,どうしてか,彼女のことが気になった。
(TVA・京アニ『CLANNAD』第1話「桜舞い散る坂道で」Aパート“幻想世界Ⅰ”) 括弧書きの行は,『CLANNAD』原作ゲーム版の“幻想世界Ⅰ”にあった地書きのうち,テレビアニメ版では「僕の声」が語らなかった部分の描写である。映像化されているので,「僕の声」であえて語る必要がなかったのだろう。“幻想世界Ⅰ”の描写も,テレビアニメ版と原作とでは,かなり違う。端的にいうならば,「僕の声」に備わるべき諦念が薄まっている。また,さすがに,あまりにも抽象的な“生まれ落ちること自体へのおそれや悲しみ”を再現することは困難だったようである。
「窓から漏れる光を受けた壁」に「その影の部分が動いている」。だから,幻想世界の少女が「僕の声」の視界を横切った瞬間,「そのとき,一瞬,光が揺らいだ」。その結果,「この世界を選んではいけないと思った」はずの「僕の声」は,「どうしてか,彼女のことが気にな」り,この幻想世界への志向を仄めかすに到るのである。
このように,生活世界と幻想世界で,両方とも「光の揺らぎ」から始まりの律動が生じていることも,ひょっとすると,二つの世界の対称関係を窺っていく上で,見過ごせないポイントになるのかもしれない。
ついでなので,Tactics/Key諸作品では,“光の揺らぎが始まりの律動をもたらす”モチーフが多用されているかもしれないというお話。
この点については,「光とは,地上にある誰でにとっても平等に降り注ぐものである。それが揺らぐことは,不均衡を生じることであり,その不均衡が,物語の端緒となることには相応の理由が存在するであろう。『AIR』であれば,地に在るはずの者を空へ志向させる原動力となる運動の喚起,『CLANNAD』であれば,終わってしまった世界として固着しているはずの世界という認識を改め,人が活動し,世界が運動していることへの喚起を示している」というthen-d氏による卓越した指摘を援用させていただき,検討を先に進めたい。
たとえば,TVA・京アニ『AIR』ならば,第1話「かぜ〜breeze〜」において,DREAM編冒頭の「光の揺らぎ」が原作通り(かろうじて)表現されているほか,神尾観鈴や霧島佳乃の初登場シーンでも,陽光(のコントラスト)が強調されている。遠野美凪の初登場シーンについても,飛び交うシャボン玉が光の屈折(揺らぎ)を促しているといえなくもない。
(TVA・京アニ『AIR』第1話「かぜ〜breeze〜」アバンタイトル) 陽光が揺らいだ。
一羽の鳥がひるがえり,空を目指していた。
その先はもう,まぶしくて見えない。
(『AIR』DREAM編/共通シナリオ・7月17日)
(TVA・京アニ『AIR』第1話「かぜ〜breeze〜」Aパート&Bパート) ちなみに,三人の初登場場面について,原作テキストでは,特に光に関する描写はない。
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そして,TVA・京アニ『Kanon』ならば,第18話「消え去りゆく緩徐楽章〜adagio〜」において,美坂栞の回想シーンで「笑い声」にかぶせるかたちで,暗闇に包まれた部屋に月光がふと射し込む「光の揺らぎ」を描き,彼女の物語に始まりの律動*1を見事にもたらしているのが典型である。
【栞】「そのとき,ふと,笑い声が聞こえたような気がして…」
【栞】「それは,昼間出会った,あの人たちの声で…」
【栞】「あの笑顔を,あの楽しそうな声を思い出して…」(TVA・京アニ『Kanon』第18話「消え去りゆく緩徐楽章〜adagio〜」Bパート) 原作テキストでは,この場面で光に関する描写はない。実に素晴らしいテレビアニメ版独自の表現。
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こうして並べてみると,光の揺らぎと始まりの律動を結び付ける比喩表現は,原作よりもテレビアニメ版の方が長けているのかもしれない。とするならば,光に関する描写がやはり原作テキストにはなかった『CLANNAD』における岡崎朋也と古河渚の出会いのシーン(生活世界)で,TVA・京アニ『CLANNAD』“幻想世界Ⅰ”と対比できるように「光の揺らぎ」をオリジナル要素として織り込むことができたのも,さすがは京都アニメーション&Keyのコンビにとって集大成的な*2アニメ化作品だけのことはあるというべきなのだろう。(文責・ぴ)
4.二人の立ち位置と距離感からみる岡崎朋也と古河渚の急接近
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