テレビアニメ『CLANNAD』(BS-i)第01話「桜舞い散る坂道で」ネタバレおぼえがき(その1)

 関東圏・TBSでの放送から3週間遅れ(実質4話遅れ)の挙句,さらにBS-iでの放送からタイムラグがあるという,ひどく執筆のモチベーションが下がりっぱなしな箇条書き。何が得られるのかは,やってみないと分からない。長文を速記できる才能がほしい(切実に)。でも,がんばる。一応,テレビアニメ版・京アニCLANNAD』に関する言及のつもりである。(それでも原作のネタバレ注意)
 
 

1.『CLANNAD』は「家族」だけを称揚しているわけではない

 古河家の「父親」古河秋生と,岡崎家の「父親」岡崎直幸。対照的な二人が,それでも「父親」には違いないということには,確かに注目しなければならないのだが。

 古河家の夕食に成り行きで招待された岡崎朋也は,古河秋生(アッキー)に毒づいているようでいて,実際には食事の最中,古河家の団欒にあてられてしまい,三人家族ひとりひとりに視線を向けると,思わず神妙な面持ちでうつむいてしまう。

 「はんばーぐっ!」な明るい古河家から,一転,暗がりに包まれた岡崎家。岡崎朋也の父親・直幸(なおちゃん)が堕落しており,父子の不和があるらしいことが一目で分かる構図。このように,TVA・京アニCLANNAD』第1話では,古河家と岡崎家という二つの家族像が対比と連続で取り扱われているのだが,ここでは,『CLANNAD』のテーマは「家族」だけには留まらないという話題にあえて触れる。

(TVA・京アニCLANNAD』第1話「桜舞い散る坂道で」Bパート)


 本作は,“CLANNAD”というタイトルがゲール語で“an CLANN As Dango”,すなわち「だんご大家族」に由来している(大真面目な話である)ことを引き合いに出して,「家族(愛)」がメインテーマであると語られることが多い。しかし,外伝としての『智代アフター』(2005年,Key)を含む原作『CLANNAD』の作品群が,並行世界と時系列の円環構造をファンタジー世界観(生活世界*1と幻想世界の交差する「町」)として採り入れつつ,16編もの“光の球”を巡る物語を用意してまで謳おうとしたのは,恋愛や夫婦,親子といった血縁関係で結ばれ得る関係性だけでなく,友情や師弟,同僚関係など,より広範な関係性を含むものである。つまり,本作では,これらの人間関係群に通底する無償的な人と人との横の繋がり―絆や想い―の全貌を指し示して,便宜的に「家族」と呼び倣わしているに過ぎない。

なかよしだんご 手をつなぎ 大きなまるい輪になるよ

町をつくり だんご星の上 みんなで笑いあうよ

(TVA・京アニCLANNAD』EDテーマソング「だんご大家族*2

 だからこそ,「だんご大家族」は「100人家族」とさりげなく歌われなければならないのである。

メグメル/だんご大家族

メグメル/だんご大家族


 とするならば,『CLANNAD』における「家族」という概念には,それ自体に固有の定義が,実のところはない。作中で描かれた人と人との絆や想いが肯定に値するものとなったとき,それを「家族」と名付けて,祝福しているだけなのであり,そこに血縁で裏付けされた本来の意味合いは乏しい。
 ちなみに,このような概念のブラックボックス化は,『CLANNAD』に先立つTactics/Key諸作品にとって,決して珍しいことではない。たとえば,『ONE〜輝く季節へ〜』(1998年,Tactics)における「永遠」は逆説的に語られ,『Kanon』(1999年,Key)における「奇跡」は推測的に説かれるしかなかったではないか。『Kanon』における「奇跡」は,決して解き明かされてはならない*3。テレビアニメ『Kanon』でも,東映版の第1期は交通事故に遭った秋子さんが回復する場面を直接描写した挙句うっかり枯れた花を咲かせてしまったが,

 しかも,なぜか相沢祐一のナレーションで「奇跡は起きた」と断言されてしまう。

(TVA・東映Kanon』(第1期)第12話「夢の跡」Bパート)

京アニ版の第2期では,たくさんの「奇跡」が起こったであろうことが確信めいて事後的に語られるのみで,それらの瞬間が直接描写されることは決してなかった。

 登場人物はみんな,後から振り返って「奇跡」という物語化(意味の後付け)をしているに過ぎない。

(TVA・京アニKanon』(第2期)第24話「夢の果ての追復曲」Bパート)

Kanon 8 [DVD]

Kanon 8 [DVD]

 したがって,TVA・京アニCLANNAD』でも,おそらくは多種多様な人と人との繋がりが取り扱われるはずであり,恋愛や「家族」という概念に囚われ過ぎると,見所が半減してしまうおそれがあることに注意しなければならない。もっとも,たとえテレビアニメ版の制作者が「(『CLANNAD』は)家族がテーマなので」それを「正面から取り扱おう」*4と意図していたとしても,原作のエピソードを組み合わせるシナリオ構成を手法とする限り(具体的には,古河渚シナリオ以外のエピソードも拾われるのならば),自ずから出来上がるものは「家族」だけでは済まなくなっているはずなので,懸念する必要は現実問題としてはまったくない。それに,そもそも春原陽平という存在一つをとっても,到底「家族」という器だけで収まりきるものではないのだ(え)。
 こうしてみると,インターネットラジオ渚と早苗のお前にレインボー」で,原作ゲームをプレイしていない古河早苗さんの中の人(おいおい)が,「この番組のテーマは,(家族ではなく)絆です」とのたまわれるのも,存外に当を得ていたりする(与太話)。(文責:ぴ)
 

4.二人の立ち位置と距離感からみる岡崎朋也と古河渚の急接近

 

CLANNAD 1 (初回限定版) [DVD]

CLANNAD 1 (初回限定版) [DVD]

CLANNAD 1 (通常版) [DVD]

CLANNAD 1 (通常版) [DVD]

CLANNAD -クラナド-

CLANNAD -クラナド-

CLANNAD ~クラナド~ 通常版

CLANNAD ~クラナド~ 通常版

*1:岡崎朋也たちが学園生活を過ごす世界。then-d「彼方の記憶(CLANNAD論)」(同人誌「永遠の現在」所収,2007年8月,2005年初出,http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/CLANNAD2.html)による分類。現実や日常といった価値判断を慎重に回避した用例であり,ロウ・ファンタジーと親和する。

*2:作詞・作曲は原作シナリオライター麻枝准氏。

*3:詳しくは,拙稿「Tactics/Key諸作品におけるジュブナイル的主題の変遷と展開―通時性と共時性―(その1)」(同人誌「永遠の現在」所収,2007年8月,http://rosebud.g.hatena.ne.jp/milkyhorse/20070720/1184937064)を読んでください(えー)。

*4:石原立也志茂文彦対談「TVアニメ版『CLANNAD』制作秘話」石原監督発言(講談社MOOK「メカビ」2007年秋号14-17頁,2007年9月,ISBN:9784063788624